| No.5 装置家 孫福剛久さん |
| 「ぼくは人生を得してる」 |
東京都庁を間近に見上げる新宿十二社通りからわずかに路地を入ると、都会の喧噪が嘘のように静かな住宅街が現れます。装置家・孫福剛久さんのご自宅兼仕事場は、そんな所にありました。
そのお部屋はまさに孫福さんの人柄をそのまま表したような空間。濃密な空気が部屋一杯に満ちているようです。もともと建築が専門だったせいでしょうか、一部の隙もない空間の生かし方は、孫福さんの装置を彷彿とさせるものがあります。
仕事机のある部屋は、縦長の長方形。窓際にはスチールのデスク。年季の入った製図板にT定規。背後の細長い空間の両脇と奥にコの字型に棚が置かれ、資料がびっしり並んでいます。各種の書籍、写真のアルバム、今までの仕事の資料は、演目ごとに封筒に収められ、封筒の左脇に上演年と月、タイトル、劇団名などが書き込まれ、一目で分かるようになっています。しかも、年毎にマジックの色が変えてあるという念の入りよう。この整理法は、本当に見事です。それにしてもその封筒の数といったらとても怖くて数える気になりません。同じ年、同じ月でタイトルの違う封筒が10本以上並んでいるのを見たりすると、「恐れ入りました」と思わず頭が下がります。まさに超人的な仕事量。 |
しかし、驚くのはちょっと早すぎました。なんと孫福さんは、知る人ぞ知るマッチコレクターだったのです。日経新聞に記事を書いたり、紀伊国屋劇場前のウィンドウに展示されたことさえあるというのだから筋金入り。昭和57年の日経新聞に記事が掲載された時すでに1万2千種ぐらいとありますから、現在どのぐらいあることやら。「自分でもはっきりわからない」というぐらい。本当にすごい数です。ところがそのマッチの図案には、すべて人物が入っていると聞いてさらにびっくり。たしかにすべて人物入り。目だけとか唇だけとかいうのもあって、一口に「人物入り」といっても多種多様。それをコントラストなどを考えながらパネルに並べて貼りつけた物は、それだけで名画の気分。この整理法もいかにもデザイナーらしいと感心しました。
このマッチコレクションのおかげで、随分いろんな人と知り合いになったとか。ある時、あまり面識もない俳優座の女優さんから楽屋に呼ばれ、何かと思って行ってみると、いきなりマッチを頂いたこともあるそうです。こんな人と人との出会いの瞬間を孫福さんは「人生フラッシュ」と名付けているとのこと。本当に「人間」が好きなんだとつくづく実感しました。 |
さて、孫福さんの多才ぶりはまだまだあります。写真のおみやげ用ミニ番傘は、アイディアからデザインまで全てご自分で手掛けた物。全国から注文を受けて、かなりの数を作ったそうです。そのデザイン画もきちんと帳面に整理されていました。噂によると「知らないうちに海外まで出回っているらしい」とのこと。「その割りに経費ばかりかかって、ちっとも儲からなかったなあ」とこぼしていらっしゃいました。 |
熱っぽく語って下さった装置のお話もとてもユニークで、ぜひ紹介したいのですが、残念、誌面が足りません。かつて照明家協会機関誌に連載された「小劇場空間論」が、あらためて出版のお話があるそうで、今少しずつ手直ししているそうですから、楽しみに待ちたいと思います。
「ぼくは本当に人生を得してると思う」と語る孫福さん、製図板に向かう姿がやけにかっこいいのはなぜなんでしょうか。
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| 次回は、衣装家 小峰リリーさんの予定です。お楽しみに! |
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