| No.4 衣裳製作 林なつ子さん |
| 「技術と芸術の架け橋」 |
代々木の駅から、わずか2分、オフィスビルの一室にある林なつ子さんの衣裳製作アトリエ「工房いーち」を訪ねました。オペラの衣裳製作では、第一人者との呼び声が高い林さん。この日もちょうど、武蔵野音大のオペラ公演のための衣裳作りの真っ最中でした。
まず、驚いたのは、その機能的な作業空間です。用途の違う3台のミシンと大きな二つの作業テーブル、そしてそれ以外の空間という空間が、全て生地や材料の分類と収納に使われているのです。壁面は、すべて棚か引き出し、天井まで無駄なスペースはいっさいありません。大きなものから小さなものまで用途に合わせた完璧な収納。作業テーブルの下にもキャスター付きの引き出し。一つ一つにきちんとラベルがつけられ、中身が一目でわかります。染料の缶、ブレード、スパンコール、アクセサリーパーツ、ボタンや金具、各種の糸、そして、もちろん生地も種類ごとに分けられリボンテープは、何段かのバーにロールごとぶら下げられ、梁の部分にはパイプが取り付けられていて、できあがった衣裳が掛けられるようになっているなど、工夫が満載。何と言っても、一つ一つの材料が、さらに何十種類にも分類されるわけですから、これをきちんと種類別用途別に収納しておくのは大変な作業です。「とにかく乱雑なのはきらい。いざ欲しいときにどこにあるかすぐ見つからないと作業効率も悪いでしょ」と林さん。たしかにそうです。ちなみに自宅でもかたづけ大好きとのこと。 ふと、横を見ると衣裳用のボディになにやら布テープのようなものが何重にも巻き付けられています。これは、着る人に合わせてあらかじめボディのサイズを調整しておき、直接布をあてながら立体裁断していくためのものだそうです。必ずしも型紙は必要ないとのこと。もともと型紙とは同じものを何着も作るためのもの、舞台衣裳の世界は1着限り、欧米ではこのやり方が一般的だそうです。「もともと人間の体は立体なんだから、3次元としてとらえる方が自然」と林さん。またまた納得。
さて、この工房には、会員でもある衣裳デザイナーの緒方規矩子さん、渡辺園子さん、八重田喜美子さんなどもよく訪れるそうで、この方達とのおつきあいは随分古くからだそうです。緒方さんとのお仕事の話の中で、大変興味深いお話を一つご紹介しましょう。以前、オペラの仕事をなさったとき、緒方さんが衣裳デザイン、妹尾河童さんが装置デザインを担当されていたそうです。幕が開いたあとで、緒方さんと林さんが一緒にいるところに、河童さんがやってきて、「装置もうまくいったけど、衣裳も素晴らしかったね」とほめて下さったそうです。ところが、緒方さんは不満顔。
なんと「デザイン画のとおりに出来過ぎてしまって、何かおもしろくなかった」と言われたそうです。デザイン画のとおりに作って文句を言われたらたまったものではありませんが、それが二人の関係を象徴しているような気がします。緒方さんにとって、林さんは単に思い通りに作ってくれるだけの職人ではないということなのです。デザインする側も作り手の豊富な知識や経験、そこから出てくる様々なアイディアを期待しているのでしょう。林さんが製作を手掛ける時、デザイン画はさらにそこから発展し、独創的な技術を経て、より豊かなイメージとして具現化されていくに違いありません。
「やっていることは、あくまで創作。自分もオペラやバレエの創り手の一人。ストーリーや演出プラン、デザイナーのイメージもきちんと理解していないといいものはできない。だからこそ楽しい」とさわやかに語る林さん。変わらぬ人気の秘密の一端をかいま見ました。 |