No.2 衣裳家 八重田喜美子さん
「すべてを決めてから描く」
 文京区、湯島天神のすぐそばに、衣裳家八重田喜美子さんのご自宅兼仕事場がありました。玄関を入るとかわいらしい猫ちゃんのお出迎え。リビングの隅にはさぎれなく古めかしい火鉢が置かれていたりして、さすがにお江戸の風情が漂います。
 八重田さんの仕事場は、リビングと続きのお部屋。9尺ほどの細長いデスクに回転椅子が2脚。なるほど アシスタントと並んで仕事をするには都合がよさそう。背面はすべて書棚。そこに分厚い民族衣装の本から演目の資料まで、ずらりと並んでいます。回転椅子でくるっと向きを変えれば、すぐに欲しい資料に手が届く、なかなか便利なレイアウトです。細かい物はすべてデスク下の引き出しに収納。送られてきたFAXや、使用中の書類などは、デスク前の壁に取り付けられた10個ほどのクリップにぶらさげる。さすがに主婦でもある 八重田さん、収納の知恵も見事です。

 さて、八重田さんの美しい衣裳デザイン画を見せていただきながら、デザインの際の色々なテクニックをお聞きしました。
 まず、デザイン画に使う紙は「パモス」。水彩絵の具を使うためケント紙などより少し質感のある紙の方が良いとのこと。絵の具はほとんどの部分に水彩を使い、アクセサリーの光り物などハイライト部分には、アクリル系の絵の具を、さらに、紙の凹凸をを利用して、パステルをこすって、生地の質感を表現するのもよく使う技法だそうです。
 ちょっと意外だったのは、「イメージだけでは描かない」とおっしゃられたこと。配色はもちろんのこと、細かい部分のの作りや生地その他の素材まで「すべてを頭の中で決めてしまわないと描けない」のだそうです。ですから、人には見せられないメモのようなものは存在しても、ラフスケッチのようなイメージだけの絵は描かないとのこと。すべてが頭の中でクリアになったら、「いきなり清書する」そうです。確かに八重田さんのデザイン画を見せていただくと、細かいところまで実に丁寧に描かれていて、生地の手触りや動いたときの風のはらみ方まで伝わってきます。

 特に配色については、いつも時間をかけてじっくり考えるそうで色鉛筆をカラーチップのかわりに並べながら基本的な配色のコンセプトを考えるところを実際に見せていただきました。「色鉛筆ってこんな使い方もあるんですね」と言うと「カラーチップって小さいし、すぐどこかにいっちゃうし、この方が便利」と。たしかにそうです。
 さらに、何十点もある衣裳全体のバランスを見るため、リビングの方にすべてのデザイン画を何度か並べて、眺めてみるのだとか。
 実際に並べていただくと、これはなかなか壮観です。「昔は襖に貼ってたのよ」と笑っておられました。
 女性らしいきめ細やかな作業の繰り返しから、美しいデザイン画が生まれていたのでした。ますますご活躍の八重田さん、これからもいいお仕事期待しています。