舞台美術家の著作権の相続に関するQ&A


Q1 故人となった舞台美術家の遺したラフスケッチ、デザイン図面、設計図面、衣裳、模型などは著作物ですか?プログラムに掲載するエッセイなどの文章はどうですか?
A スケッチ、図面、模型などは、美術家のオリジナルな表現である限り著作物です。著作物 と言えるためには、純粋な実用品ではダメ、といった条件もありますが、舞台美術家が作成したスケッチ等のものであれば、これらの条件については満たしている場合が多いでしょう。また、著作物である図面などに基づいて現実に製作された装置や衣裳は、その複製又は二次的著作物と考えられ、元になった図面などの著作者(作品を創作した方)の権利が及びます。その結果、例えばそういった装置や衣裳を複製しようとする人は、元となった図面の著作者に対しても許可を求めなければならないことになります。
プログラムに掲載するエッセイなどの文章も同様に、オリジナルなものは著作物です。単なる事実を伝える文章(例えば配役を羅列したようなもの)や型通りの挨拶文は文章にオリジナリティがないので著作物とはなりませんが、オリジナリティの認められる文章は、エッセイに限らず、評論や稽古場ドキュメンタリー、また詩のような短いものであっても著作物です。従って、スケッチ、図面、模型などとほぼ同様に著作物として保護を受けることができます。


Q2 故人は著作権登録をしていなかったのですが、それでも著作物と言えるのでしょうか?
A 日本を含むほとんどの国では、著作物として守られるためには著作権登録や著作権表示(○Cマーク)は必要ありません。公表・未公表を問わず、作品の創作と同時に作品は著作 物となり、著作権の保護は始まります。


Q3 著作権はいつまで保護されますか?
A 通常、著作者の死亡の翌年の1月1日から50年間が経過するまで、保護されます。ただし、団体名義や変名(ペンネームなど本名とは異なる名前。この場合はQ4を参照してください。)で公表した作品の場合、公表の翌年から50年で保護が終了します。


Q4 故人は本名とは違うアーティスト名で活動していたのですが?
A 本名と違う名前でも、それが故人の変名として知れ渡っていれば本名で公表した場合と同じ期間、著作権の保護を受けることができます。仮に、故人の変名だということがあまり知れ渡っていないならば、公表から50年経過する前に本名で公表し直すか、あるい は本名で著作権登録すれば、原則通り著作者の死後50年間の保護が与えられます。
著作権登録の方法については、文化庁著作権課に問い合わせるのが宜しいでしょう。
(電話03-5253-4111)


Q5 故人の著作権は誰のものになるのでしょうか?
A 特に生前の合意や遺言状などがない場合、民法で定められている法定相続人が自動的に相続します。法定相続人は、子供がいる場合には配偶者と子供、子供がいない場合には配偶者と(故人の)親、親も存命でない場合には配偶者と(故人の)兄弟姉妹です。


Q6 複数の相続人がいる場合には故人の著作権は誰のものになりますか?
A 複数の相続人がいる時には原則として、著作権(を含む全部の相続財産)は相続人全員の共有となります。共有の持分割合は、民法に規定されたそれぞれの法定相続分通りになるのが原則です。例えば、死亡した舞台美術家に配偶者と子供二人がいる場合、法定相続分は配偶者:子供:子供=2:1:1となります。


Q7 共有ではなく、著作権を相続人のうちの一人に集めたいのですが。
A 例えば、相続人のうち一人を除いて全員が相続放棄をすれば、自動的に相続人は一人 だけになりますので、著作権はその一人のものになります。しかし、この方法ですと、著作権以外の財産も含んだ相続財産全てが一人のものになってしまいます。そこで、相続財産のうち例えば預貯金は相続人Aに、著作権は相続人Bに、という分けかたをしたいならば、相続人全員で遺産分割協議を行ってそのように合意すれば宜しいでしょう。遺産分割協議で合意された内容を遺産分割協議書として公正証書(公証人役場で作成してもらえます。)にしておくと、後々協議の内容について紛争が起こることを防止でき、また紛争が起こってしまった時でも解決しやすくなります。


Q8 私は放送局のプロデューサーですが、相続されて共有になっている著作物を利用したい場合、誰の許可を得れば良いのですか?
A 原則として共有者全員、つまり相続人全員の許可が必要です。ただし、相続放棄や遺産分 割協議によって、一人の相続人だけが著作権を引き継いだのであれば、著作権者であるその一人の許可を受ければ、著作物を利用できます。また、共有著作権者は、協議して「代表者」を決定することができます。こうした代表者が決まっているならば、代表者の許可を得るだけで著作物を利用できることになります。


Q9 故人の作品の大半は主催者が保有していますし、模型などは市の美術館に寄贈してしまったのですが。
A ご質問のケースではおそらく、装置や衣裳の所有権が主催者や美術館にわたっているのでしょう。しかし、物の所有権と、そのデザインやイメージの著作権は別な権利です。所有権が譲渡されたからといって、著作権は譲渡されたとは限りません。むしろ、「著作権を譲渡する」という合意がはっきりとなされなかったのなら、創作した著作者に著作権は残っているのが普通です。仮に、舞台衣裳や装置模型といった美術の著作物の所有権がAさんに、著作権がBさんにあるという場合、その衣裳や模型を第三者に譲渡したり自分の家に飾るのはAさんの自由ですが、写真集として出版したり上演、放送利用するためには著作権者であるBさんの許可が必要です。


Q10 私は美術家ですが、自分の死後、相続人の中で著作権を巡ってもめごとにならないように、著作権者を一人に決めて置きたいのですが。
A 遺言状の中で、著作権は相続人Aに相続させる、と記載して置けば、著作権はAさんだけが相続することになります。そして、Aさんが受け継いだ著作権の値打ちを勘案しつつ、残りの相続財産が相続人に受け継がれます。ただし、相続財産の値打ちの大部分が著作権だった場合で、かつ、他の相続人から異議が出た場合、民法で定められている「遺留分」という考え方が働いて、遺言状で指定した通りにはならない場合がありますので、詳しいことは弁護士などの専門家にご相談ください。


Q11 相続人ではなく、死後は作品を市の美術館に寄贈したいのですが、どういう方法があるでしょうか?
A やはり、遺言状に記載する方法があります。また、生前に贈与の合意をして置く方法もあるでしょう。作品の所有権だけではなく著作権も譲りたい時にははっきりそのことを遺言状などに記載しておくことが必要です。美術館に限らず、いかなる個人・団体に寄贈することもできますが、いずれにしても、生前に受け入れ先の意思や方法を良く確認して置くといいでしょう。また、この場合にも対象となるものの価値が相続財産全体に占める割合が高い場合には、Q10で触れた遺留分が問題となる場合がありますので、詳しいことは弁護士などの専門家にご相談下さい。


Q12 私の作品はうまく生かせば、今後も継続して著作権収入ガ見込めると思います。死後(あるいは生前からでも)、作品の管理は適当な団体に任せたいのですが、そこからの収益は遺族にわたるようにしたいのです。どういう方法がありますか?
A 信託という方法があります。信託先は個人でも団体でも可能です。詳しい条件や方法については、専門家にご相談ください。



(解答者 弁護士 福井健策/森村佳奈)